主役はニコラス・ツェーだ! 『レイジング・ファイア ~怒火~』ネタバレあらすじや感想・考察

アクション

『レイジング・ファイア』 ネタバレあらすじ

謎の男たちの襲撃

夢の中で忌まわしい過去の記憶がフラッシュバックするチョン刑事(中国語名=張崇邦 以下、愛称のボンと表記)。
彼は出産を控えた妻に心配されながら、今日も東九龍警察本部で危険な任務につきます。
この日は香港警察が何年も追ってきたマフィアの大物ウォン・クワンの取引現場に踏み込む作戦が実行されようとしていました。
ところが、ボンは警察上層部の傷害事件もみ消しに加担することを拒否したため、彼とそのチームは実行直前に作戦から外されてしまいます。

一方、ボンの旧友で捜査を指揮するイウ警部ら警察部隊が取引現場に踏み込むと、謎の集団によって取引相手は殺され、ウォンたちも攻撃されていました。
仮面を被ったその集団はたった5人にも関わらず圧倒的な強さで、ウォンや手下は皆殺しにされ、警察の部隊も全滅させられてしまいます。
最後に残ったイウ警部の前で男たちが仮面を外すと、どうやら彼らは面識があるようでした。
しかし、男たちは躊躇せずイウ警部を高所からつき落とします。
命令に背いたボンたちが現場に到着するも、すでにイウ警部は絶命していました。

過去の因縁

ウォンから麻薬を奪った5人組は別のマフィア、マンクワイに渡し報酬を得ます。
5人組のリーダー、ンゴウは部下に金を分配すると、しばらくは目立たぬように元の生活に戻ることを命令しました。
ンゴウは休養期間にもトレーニングを欠かさず、その合間に昔のことを思い出します。

~回想シーン~
警察署でチーム対抗のレクリエーションに興じるンゴウとボンたち。
かつて彼らは香港警察の同僚でした。
そこにある事件が起きます。
大銀行の会長フォックが不倫中、何者かに誘拐されたのです。
彼らの上司であるシートウ副総監は有力者に取り入りたい思惑もあり、フォック救出を強い口調で命じました。
その事件の容疑者の一人こそが、あのウォン・クワンでした。
やがて、さしたる理由もなく、ボンのチームがウォンを追い、ンゴウのチームがもう一人の容疑者ホーを追うことになります。それが運命の分かれ道になるとは知らず…。
先にホーを追い詰めたンゴウたちは人質救出のため、殴る蹴るの暴行を加え自白させようとします。
副総監も手柄のために、「自分が責任を取る」としながらもンゴウに拷問をするよう強要しました。
やがてホーは自白し、フォックは救出されましたが、ンゴウの仲間がホーに嚙みつかれてしまいます。
それを救うべくチームの一人、チョン・ダッピウが角材でホーを殴ると、ホーは死んでしまうのでした…
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麻薬の取締りを強化した警察は、死んだウォンの麻薬をさばいているのがマンクワイであるという証拠を押さえます。
しかし、捜査令状はすぐには出ません。
ボンははやる部下をなだめ、今夜は全員帰宅して休むよう指示しました。
ところがボンはその後、家に帰らずマンクワイのアジトへ単身、乗り込みます。
マンクワイらとボンが激しい銃撃戦を繰り広げていると、ボンの部下も駆け付け、あと一歩のところまで追い詰めましたが、マンクワイはンゴウの部下に口封じのため轢き殺されてしまいました。

自殺した仲間チョンの墓参りをするンゴウたち。
そこにボンも花を手向けにやって来ました。
しかし、ンゴウの部下たちはボンを拒絶し、「帰れ」と食って掛かります。
そんな中、ンゴウだけはボンと話をします。
ボンは、ウォンの麻薬を奪いイウら警察を殺したのはンゴウではないか、と疑いながら、あの事件を思い返していました。

~回想シーン~
ンゴウたちがホー痛めつけている頃、ボンたちもウォンを逮捕していました。
ボンは急いでンゴウたちの許に駆け付けますが、すでにホーは死んでいました。
容疑者を死亡させてしまったことでンゴウたちは裁判にかけられることになります。
ところが裁判の場になると、救出してもらったフォックはしらを切りウォンの関与を否定し、ンゴウたちに不利な証言をします。
「責任を取る」と言った副総監も嘘をつき、ンゴウたちが暴走したように事実を捏造しました。
唯一の目撃者であるボンも証言を求められ、ンゴウたちの「ホーが抵抗して転倒したために死亡した」とする主張と口裏を合わせれば、彼らの判決はまた違ったものになったのかもしれません。
だが、ボンは正義感が強く嘘がつけない性格でした。
正直にホーの抵抗は目撃せず、チョンたちがホーを暴行するところは目撃したと答えたのです。
その結果、ンゴウと部下たちは有罪となり、監房で地獄のような日々を送った挙句、チョンは生活できずに自殺を図ったのでした。
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証拠

ンゴウに目立つ行動は控えるよう指示されていたというのに、部下の一人チウはクラブで豪遊したり、女に貢いだりと派手な生活をしていました。
ウォンから盗んだ時計も女にプレゼントし、果ては痴情のもつれからその女を殺してしまいます。
女の死体が発見されると、持っていた時計がウォンのものであることが分かり、チウが犯行に関与したことが明白になりました。
それはつまり、ンゴウが事件の主犯であることを意味していました。
さっそくボンたちはチウの尾行を開始しますが、ンゴウたちと街中で銃撃戦になってしまいました。
壮絶な戦いの末、ンゴウやチウは取り逃がしましたが、仲間の一人であるワーの身柄を確保することに成功します。

ボンたちはワーを逮捕したものの、彼と事件を結びつける証拠はありません。
拘留期限が迫るなか、なんと警察署にンゴウたちが現れます。
ンゴウは致命的なミスを犯したチウを殺し、事件をチウ一人の犯行に仕立てる偽装工作をしたうえで、挑発するかのように彼の捜索願を出しに来たのでした。
ボンたちはンゴウを尋問しますが、当然ながら証拠がないので48時間しか拘留することはできません。
そこへチウの死体発見の知らせが入り、状況証拠はチウ単独での犯行を示していました。
これでンゴウたちに結びつく証拠は絶たれてしまったのです。
ボンが激高しンゴウと2人だけで非公式の尋問をすると、嘲笑うかのようにンゴウは犯行を認め、ボンへの恨みを明らかにしました。
その時、ボンの妻が爆弾を持った男に人質に取られたとの報告が入ります。
同時にンゴウたちの拘留期限が過ぎ、警察は何の成果も得られないまま彼らを釈放することになりました。

窮地

爆弾を装着しながらボンの妻を人質にしたのは、驚くことにシートウ副総監でした。
副総監はボンの妻を手錠で自分とつなげ、さらにその教え子や保護者までも人質にして現場に立て籠もっています。
彼はどうやら、ンゴウたちに自分の家族を人質にされ、犯行を強要されているようです。
命令された通りに副総監はボンと対面すると、4年前の事件の真相を告白しました。
ついに彼は、フォックに取り入るために自分がンゴウに暴行を強要したこと、したがってンゴウは悪くないことを認めました。
しかし、ンゴウは「まだ足りない」と爆弾のタイマーを起動させます。
爆弾は副総監の脈が検知できなくなれば停止する仕組みでした。
副総監を撃つか全滅するかの選択を迫られたボンは、それでもあきらめず爆弾を解除しようとしますが、間に合わないと判断した警察は副総監を射殺します。
これで終わったと安堵したのもつかの間、もともとボンを妻もろとも殺すつもりだったンゴウは、停止した爆弾の起爆装置を再起動させました。
ボンはとっさに妻の手錠を拳銃で破壊し、間一髪のところで爆発から逃れました。

妻の命は救われたものの、彼女は身心ともにダメージを負ってしまいました。
病院で妻を案ずるボンでしたが、追い打ちをかけるように内部調査課に拘束されてしまいます。
ボンはその持ち前の正義感ゆえに、普段から腐敗した警察上層部の命令に背いていました。
そして今回の事件では妻の命を守るために、強行突入しようとする特殊部隊に向けて発砲したのです。
それが引き金となり、ボンには逮捕状が発行されてしまいました。
このまま起訴、有罪となればンゴウの逮捕どころか自分が先に監獄行きです。
いよいよ警視監主宰の審問が始まりました。
ボンが発砲の正統性や、これまで自分が私利私欲を捨て正義のためにどれだけ尽くしてきたかを語ると、署の大勢の仲間たちも警視監にボンへの寛大な処置を嘆願します。
それらを考慮したのか、警視監は自らの体調不良という口実で、ボンに24時間の猶予を与えました。

市街地での激戦

ンゴウは最後のヤマに銀行強盗を計画していましたが、手を組むはずだったマフィアのウィンに裏切られたため、彼らを殺して武器を奪い、4人だけで作戦を決行することにしました。
ウィンの死体に捜査攪乱のためのUSBメモリを忍ばせたことで警察はまんまと策にはまり、ンゴウたちはファンア銀行を襲うものと思い込んでいました。
しかし、殺されたウィンの仲間にフォックシー銀行の行員がいたこと、何よりンゴウたちはフォックシー銀行の会長フォックに恨みがあることから、ボンは彼らの本当の狙いはフォックシー銀行であることを確信します。

ンゴウたちは計画通り、株主総会に出席していたフォックを拉致し、金庫を開けさせた直後に殺害しました。
金を持って逃走するンゴウたちとボンのチームは路上で相対します。
カーチェイスの果てに、彼らはチムサーチョイ(香港を代表する繁華街)のど真ん中で銃撃戦を繰り広げることとなりました。
重武装で警察に戦いを挑むンゴウ一味でしたが、ボンたちの活躍により一人ずつその数を減らしていきます。
とうとう最後の一人となったンゴウと追うボンは、教会で最後の決着をつけることになりました。
ンゴウは両手にバタフライナイフ、ボンは特殊警棒を持ち、一進一退の攻防が続きます。
お互いが限界まで傷つき身動きができなくなった頃、警察の特殊部隊が突入し、ンゴウを取り囲むレーザーサイトが戦いの終わりを告げました。
ンゴウは負けを認めつつも、「運命には屈しない」と鉄筋棒に自らの体を貫き通し、自死をもって決着をつけるのでした。

感想 優等生的なドニーは見たくなかった…そして円熟したニコラス・ツェーの魅力炸裂

本作は「SPL 狼よ静かに死ね」「フラッシュポイント 導火線」「スペシャルID 特殊身分」といったドニー・イェンの一連のアウトロー刑事のシリーズ(公式には関連性はないが)の集大成的な作品であります。
ならば我々としては必然的に野獣のように暴れるドニーを期待してしまうわけですが、本作のボンというキャラクターはこれまでと少し毛色が違っています。
正義のために腐った上層部の命令はガン無視して暴走する、ここまでは良い。
しかし、このボンはあまりに遵法精神が強過ぎました。
凶悪犯を少しばかり痛めつけてしまったことにどれ程の罪があるでしょうか?
ボンは法を遵守するあまり、仲間を見捨てたのです。
この点で、勝手ながら私は本作主人公のボンという人物にどこか醒めてしまったのでした。
いや、もちろんドニーのアクションはますますキレッキレだし、演技にも深みがあるし、ドニーという役者個人としては最高だと思うのですよ。
ただ、人物設定が微妙でした。
暴走刑事ならば「俺が法律だ」ぐらいのことは言ってほしいし、過去作のマー刑事だったらンゴウたちを差し置いて犯罪者をボコっていたでしょう。
おまけにボンは、よき夫であり子宝にも恵まれ、時には妻に甘え、チームをまとめる立場で大勢の仲間に慕われ…過去作のどこまでも孤高でギラついた感じが失われ、妙に人間味があり優等生的なのです。
同じような役ばかりもよろしくはないでしょうが、その点が少し残念でした。


反対にドニーを喰ってしまう魅力に溢れていたのがニコラス・ツェー演じるンゴウです。
もしかしたら、ボンの人物像にはンゴウを引き立たせる目的があったのかもしれません。
個人的には、本作公開前にドニーの敵役がニコラスと判明した際には正直言って力不足だと思ったのですが、いざ鑑賞してみたらあまりの格好良さに度肝を抜かれました。

まず、外道の上司と金持ちによって地獄に堕とされ復讐の鬼となった元警官、という設定がもう最高です。
ニコラスの演技には悲しい過去を背負った悪党ゆえの狂気や凄みが出ていました。
若い頃はあまりのハンサムぶりに何の役でもアイドルにしか見えなかったのが、アラフォーとなり渋みが増したことで、円熟した男の魅力がほとばしっているのです。
マイケル・マン監督の「ヒート」丸出しの市街戦では、服装までもオリジナルに忠実で、ブラックスーツにサングラスとロバート・デ・ニーロまんまなのですが、男前度は全くもって引けを取りません!
そこで使う銃器が敢えてアサルトライフルでなく、グロック18cをカービン化したものという点もまた玄人っぽさを醸し出しています。
そしてラストバトルでの両手バタフライナイフが非常に観る者の中二病マインドを刺激します!
特殊警棒対ナイフといえば、「SPL」でのドニーVSウー・ジンのバトルが映画史に残すべきレベルだったので比較されてしまわないか心配になりますが、今作はまた違った見せ方で決して見劣りはしないと断言します。
ナイフバトルからのMMA(総合格闘技)的アクションの流れるような展開も素晴らしく、ニコラスがこんなに動ける俳優だとは思いませんでした。
もはやバタフライナイフをフリッピング(グリップを振り回してチャカチャカさせるアレ)させる奴はザコ、という定説は完全に覆ってしまいました。
ニコラスをいかに強く見せるかについてはドニーも腐心していたようですし、スタントコーディネーターの谷垣健治氏の手腕もあったのでしょう。
いずれにしてもニコラス・ツェーはこれから一流の格闘アクション俳優として認識されるべきであります。

さて、本作はまた残念ながらベニー・チャン監督の遺作となってしまいました。
彼の作品では、私は特に「レクイエム 最後の銃弾」が好きで、香港ノワールが何たるかを理解している数少ない監督(他にはジョニー・トー、ウィルソン・イップ)だったと思います。
もうあの香港映画らしい香港映画が観られないのは、世界にとって大きな損失です。
そう言えば、何となく本作にも中国本土の影響が感じられました。
警察の腐敗についての描写も抑え気味ですし、どうもCGが目につく気がするのです。
特にチムサーチョイでの銃撃戦では、マズルフラッシュに大きな違和感を覚えました。
ボンがやけに優等生的なのも、もしや暴力刑事が主人公なのはNGだからなのか、と変に勘ぐってしまいます。
「これぞ香港映画」というベニー・チャン監督の集大成が観られて嬉しい反面、これからの香港映画界を思うと暗澹たる気持ちになるのも事実です…

考察 あの日、ボンとンゴウの立場が逆だったら…

ンゴウは自ら命を絶つ直前、「あの日、あんたがホーを追っていたら…。俺たちの運命は逆になっていたか?」とボンに問いかけました。
そしてボンは無言のまま踵を返し、問いには答えませんでした。
なぜボンは答えなかったのでしょうか?そして、もしホーをボンが追っていたら単純に逆の結果になったのでしょうか?

この点については、逆の結果にはならないと考えられます。
仮にボンが先にホーを追い、ンゴウがウォンを追ったとしましょう。
そしてボンがホーの身柄を押さえたならば、いちいち法に則る彼はその場で拷問などするわけもなく、署に連行して取調べをするはずです。
もちろんホーは黙秘を続け、捜査は進展しません。
シートウ副総監はしびれを切らしてボンを脅迫するでしょうが、ボンは絶対に屈しません。
その結果、株式市場が開く前にフォックを救出できないどころか、そもそもフォックが死んでいた可能性も高いわけです。
その後、ホーも野放しになって犯罪を重ねたでしょう。
したがってボンが有罪になってンゴウと同じ立場になることはありえないのです。
これはこれで胸糞の悪い話ですが。
いや、下手をすると一向にホーから自白を引き出せないボンの代わりに、ンゴウがウォンを拷問してフォックを救出したかもしれません。
そうなると、どのみち結果は変わらなかったということになってしまいます。
ボンが敢えてンゴウの質問に答えなかったのも、それが分かっていたからです。
ンゴウは「自分がホーでなくウォンを追っていたら、今の立場はボンと逆になっていた」と思っており、不運を嘆いているわけですが、ボンはそれを否定してこれ以上ンゴウを傷つけるのが忍びなかったのでしょう。
それにしても、こう考えるとやっぱりドニーは大好きだが、ボンというキャラクターは好きになれませんね…。