
『墓地裏の家』ネタバレあらすじ
プロローグ
マサチューセッツ州ボストンのニューウィトビー郊外にある一軒家…今は廃屋となっているその場所に一組のカップルが忍びこんでいました。
女はいつの間にか姿を消した男を捜しますが、見つかりません。
突然、物音がしたかと思うと、胸にハサミを刺され、割れた頭からは脳みそがむき出しとなっている変わり果てた姿の男が現れました。
女は悲鳴を上げますが、叫ぶが早いか、何者かが彼女の脳天から口まで包丁を突き立て、一瞬で絶命してしまいます。
何者かは女の死体を引きずって地下室へと消えました。
謎の少女メイ
ニューヨーク…男の子ボブが見つめているのは、先ほどの惨劇のあった家の写真です。
奇妙なことに、写真の家の窓には少女が写り、ボブにこの家に来てはいけない、と語りかけます。
ところが母のルーシーにそのことを話すと、家の写真から少女が消え、母には信じてもらえませんでした。
ニューヨーク歴史研究所に勤める、ボブの父でありルーシーの夫であるノーマンは、前任者の研究を引き継ぐために、家族でニューウィトビーへ移住することになりました。
その前任者エリックはノーマンの師でもあるのですが、なぜか気が狂って愛人を殺したあげく、自殺してしまったのです。
そのように悲惨な経緯であっても、ノーマンにとっては収入もキャリアもアップするチャンスではありました。
その頃、ニューウィトビーの地では、ボブの見た写真の少女がとある店のショーウインドウを凝視していました。
すると突然、飾られていた女のマネキンの首が切断され、胴体からは血が流れ出ました。
それは不吉な暗示のようでありました…。
ニューウィトビーへやって来たノーマン一家は不動産屋を訪れ、手続きをおこないます。
その間、車で待っていたボブは例の写真の少女に話しかけられました。
少女はメイと名乗り、警告に従わずここへ来てしまったボブを咎めます。
引っ越しては来たものの、ルーシーはこの場所が何となく好きになれず、ボブとニューヨークに帰りたいとこぼします。
それにルーシーは抗精神薬を処方されているようですが、逆に副作用で幻覚を見るから、と最近は薬を飲んでいませんでした。
怒る彼女をノーマンが必死に説得していると、不動産屋から紹介されたベビーシッターの女性アンがやって来ます。
アンの顔は、先ほどメイが見た、首を切断されたマネキンとそっくりでした。
夜、ノーマンが書斎で研究をしていると、ドアが軋む音と子供のすすり泣く声が聞こえます。
最初はボブかと思いましたが、ボブは自分の部屋ですやすやと眠っていました。
物音はなおも続き、ノーマンが家中を見回ると、それはアンが地下室への扉を塞ぐ板を外そうとしている音でした。
不吉な地下室
明くる朝、ノーマンは図書館で前任者エリックの調査資料をそっくり引き継ぎますが、なかには研究の題材と関係のなさそうなものも多く含まれていました。
フロイトシュタイン博士に関する記録もその一つです。
フロイトシュタイン博士は19世紀末頃の外科医で、何らかの非人道的行為により生涯において医療行為を禁止された人物でした。
その頃、家で掃除をしていたルーシーはふとしたことから、床下に墓があることを発見します。
墓碑銘には「ジェイコブ・テス・フロイトシュタイン」と刻まれていました。
その直後、キッチンから物音がしたためルーシーが見に行くと、地下室の扉がガタガタと揺れ、そこから子供のすすり泣きと、激しく物を動かす音が響き、ルーシーは悲鳴を上げます。
やがてノーマンが帰宅し、部屋の隅で泣き続ける彼女を介抱しました。
少し眠ったことでルーシーの気分もよくなり、ノーマンは地下室の扉を開けてみることを提案します。
ちょうどその時、外出していたボブとアンも帰ってきました。
見つけたばかりのカギを使い、錆びついた扉を開けると、ノーマンは地下室へと降りていきます。
しかし、そこにはコウモリが巣食っており、ノーマンや助けに来たルーシーを襲います。
ノーマンはハサミを突き立ててコウモリを退治しましたが、手を噛みつかれたことですっかり血塗れになってしまいました。
この一件でルーシーはすっかり気が滅入ってしまい、すぐに夫婦で不動産屋を訪れると、明日にでも違う物件に引っ越したいと訴えます。
従業員は、責任者のローラを必ず今夜訪問させると約束しました。
この従業員はノーマンらの家を「フロイトシュタイン邸」と呼び、どうやらそこがいわくつきの屋敷であることを知っており、こうなることを半ば予見していたようでした。
始まった惨劇
夜、不動産屋のローラがノーマンらの家を訪れると、あいにくと誰もいません。
誰かの足音を聞き、人影を見たローラは家を探しますが、床にある墓を踏み抜いてしまい、足が抜けなくなりました。
身動きがとれなくなった彼女に何者かが忍び寄ります。
それは暖炉の傍の火かき棒を掴むと、おもむろに弄ぶようにローラの体に何度も突き立てました。
そしてローラが絶命すると、その死体を引きずって地下室へと運び込みました。
翌朝、アンは血だらけの床を何事もなかったかのように掃除し、ルーシーにも何も言いませんでした。
この日、ノーマンは前任者エリックの死はフロイトシュタイン博士に関係していること、その調査の許可を得るため、ニューヨーク歴史研究所へ行かねばならないことをルーシーに話しました。
一方、ボブは母に内緒で庭でメイと遊び、家を出るようにという何度目かの警告を受けます。
妻には「ニューヨークへ行く」と言ったノーマンですが、彼はすでにエリックの調査を開始していました。
手始めに図書館でエリックの研究資料を探ったノーマンは、その中にカセットテープを見つけ、再生してみます。
その音声からは、エリックがフロイトシュタイン博士とその家に執着して以降、段々と狂っていく様子がうかがえました。
ノーマンは音声を聞くうちに、エリックの妻と子がフロイトシュタイン博士によってバラバラに惨殺される場面を想像してしまい、忌まわしくなってテープを焼却処分します。
そしてノーマンが遠方のフロイトシュタイン博士の墓を訪れたところ、彼の埋葬そのものが嘘であることを知りました。
家でボブの姿が見えなくなったため、アンは扉が開いている地下室へボブを探しに降りていきました。
ところが階段を降りきったところで突然扉が閉まり、開かなくなってしまいます。
そこへ包丁を手にした何者かが現れ彼女を襲い、アンの首は切断されるまで何度も切り付けられました。
アンの悲鳴を聞いたボブは、急に扉が開いた地下室へ助けに向かいます。
階段の途中でボブは、アンの生首が階段を転げ落ちるのを目撃し、一目散に地上へと逃げました。
やがてルーシーが買物から帰り、ボブは泣いてアンが殺されたことを訴えますが、母は信じてくれません。
二人で地下室へ降りてみるも、生首はおろか、アンが殺された痕跡ひとつ見つかりませんでした。
怪物の正体
その夜、ボブは自分の見た光景がもしや間違いだったのではないかと思い、もう一度地下室へアンを探しに行きます。
地下室で闇に光る眼光を目撃し、やはりボブは怖くなって戻りますが、またしても扉は固く閉ざされていました。
ルーシーも息子の悲鳴を聞き即座に扉を開けようとしますが、何をしても扉は開かず、カギも折れてしまいます。
そうしているうちに、何者かはゆっくりとボブに近づいていきます。
やっとノーマンが帰宅し、斧で扉を叩き割りますが、何者かがボブの頭を押さえつけていたため、あわや斧がボブに当たるところでした。
幸運にも斧は何者かの腕を直撃し、切断しました。
ノーマンの調査によると、ここは件の人物フロイトシュタイン博士の住んでいた、否、今でも住んでいる家だったのです。
腕を失ったフロイトシュタインは、複数の子供の入り交じった声で泣いています。
禁断の医術によって犠牲者の体を利用し、前世紀から生き長らえている彼の姿は、干からびたミイラのようでした。
そして地下室の奥にはフロイトシュタインによってバラバラにされた犠牲者の死体が散乱していたのです。
ノーマンはようやく扉を壊し、ボブを救うためフロイトシュタインに斧で立ち向かうものの、怪力によってあっさりと振り払われてしまいます。
それでもノーマンはフロイトシュタインの凶器であるナイフを拾い、彼の腹を抉りました。
フロイトシュタインの腹からは臓物と大量のウジ虫が流れ出てきましたが、それでも致命傷には至りません。
逆にノーマンはフロイトシュタインに素手で喉をかき切られてしまいました。
絶望するルーシーは、ふと地下室の天井に割れ目があることを発見します。
そこはローラが踏み割ってしまった墓とつながっていました。
ルーシーは階段を上り、その割れ目から地上に出ようとしますが、奮闘むなしく、フロイトシュタインに足を掴まれ引きずり下ろされます。
引きずられ、階段に頭を打ちつけるうちに、ルーシーはやがて動かなくなりました。
メイとともに
フロイトシュタインは一人残されたボブも捕まえようとします。
必死に天井の割れ目から逃げようとするボブは、その小ささもあり、頭だけは地上に出ることができました。
しかし、無情にもフロイトシュタインがボブの足を捕えます。
すると、何者かの手が天井の割れ目をこじ開け、ボブを引っ張り上げました。
驚くことに、ボブを救出したのはあの小さい少女メイだったのです。
ボブを救い再会を喜ぶメイに、フロイトシュタイン博士の妻メアリー・フロイトシュタインが声をかけます。
「帰る時間だよ。この家の礼儀を忘れないように。ボブにこの家でのしきたりを教えて。他にも運命が定めたお客が来る。」
そしてメアリーは二人の手を取って屋敷を後にしました。
後にはフロイトシュタインの発する子供のすすり泣く声がいつまでも続いていました…。
『墓地裏の家』感想 三部作の最後はフルチ流残酷おとぎ話だった!

『地獄の門』『ビヨンド』で散々、支離滅裂だと評されたフルチ監督は、本作においてとんでもないエクスキューズを用意してくれました。
ズバリ、それは「おとぎ話」だから何でもあり、という理屈です。
本作の筋立てとしては、この家は何かヤバイ!でもそれに気付いているのは幼い子供と抗精神薬を服用している女なので妄想かも…周りの人間も怪しいし、どこまでが現実でどこからが空想の世界なのか境界が曖昧で…といった感じで、全てが曖昧模糊としています。
「シャイニング」のような幽霊屋敷もののようでもありますが、少年期特有の恐怖と幻想を膨らませた「ファンタズム」シリーズの作りに似ていると思います。
本作は、とにかく子供に重点を置いており、主人公と言えるのはやはりボブであろうし、物語の鍵を握る謎の少女メイにしても、ボブとそう変わらない年齢です。(演じるシルヴィア・コラッティーナはまだ幼いのに途轍もなくミステリアスな顔立ちで雰囲気抜群です)
ラストシーンで引用される作家ヘンリー・ジェイムズの一節「子供が怪物か、怪物が子供なのか、誰にも分らない」が示すように、何やらフロイトシュタインも子供の声ですすり泣くし、その仕草も子供じみていました。
ストーリー上の謎は何一つ説明されず、最後の瞬間まで蓄積されていくところを見るに、これは子供の感性が作るダーク・ファンタジーなのだと解釈できます。(その点ではギレルモ・デル・トロ作品にも近いかもしれません)
BGMもこれまでのファビオ・フリッツィからウォルター・リッツァートに変わり、パイプオルガン風シンセサイザーの奏でる哀愁に溢れつつも神々しいまでに美しいメインテーマが、現実を超越した話であることを感じさせてくれます。
もちろん、ファンタジーだから理屈は一切合切ブン投げても構いません。
本作の謎・矛盾を簡単に挙げるだけでも、
①家で事件があったのに(前任者エリックによる愛人の殺害)、なぜ地下室は完全にスルーされているのか?そもそも地下室が怪しいことが分かっていながら、なぜエリックもノーマンの一家も地下室の奥へ行かないのか?
②もともと地下室の扉は板を打ち付けて封印してあったのに、冒頭のカップル殺しの時などフロイトシュタインはどうやって地下から出てきたのか?殺害後にどうやって扉をまた封印したのか?
③ベビーシッターのアンはなぜ真夜中に扉の封印を外していたのか?ローラが殺された際の血だまりを、なぜルーシーに黙って掃除したのか?なぜルーシーに話しかけられても無視するのか?
④地下室へ誰かが降りると、その都度、扉が閉まって大騒ぎするというシチュエーションをしつこく繰り返しているが、地下室の扉は遠隔操作でもできるのか?
⑤図書館員は、去年の10月にここへノーマンが娘を連れて来たと話すが、それは何を意味するのか?ノーマンは何かを隠しているのか?
⑥フロイトシュタインの墓は家に作られているのに、なぜ別の場所にも墓があるのか?
⑦フロイトシュタインの妻メアリーと娘メイは幽霊なのか?フロイトシュタインは生きているから墓が空なのは分かるが、メアリーは死んでいるのになぜ同様に墓が空なのか?二人ともフロイトシュタインに殺されたのか?
⑧なぜフロイトシュタインは子供の声ですすり泣いたり、子供のような仕草をするのか?彼の殺した犠牲者の魂に取り憑かれているのか?
⑨ボブは最後、本当に助けられたのか?メアリーとメイに連れられ、死後の世界へ行ってしまったのなら、バッドエンドではないのか?
といった点が指摘されます。
ただし、それが輪郭が曖昧なおとぎ話であれば、いちいち説明したり辻褄を合わせたり、伏線を回収しなくてもいいんです!
そして全ての謎は放置され、観客は不思議で恐ろしい夢を見たかのような感覚に陥るのです。
もう1つ補足すると、先ほどの引用元のヘンリー・ジェイムズは、1898年発表の小説「ねじの回転」が有名であり、同作は幽霊屋敷ものの体をとりながら、実は現実か妄想か分からない「信頼できない語り手」ものの傑作であります。
この引用からも、本作が意図的に物語の詳細をぼかしていることは明らかです。
(※ただし、ここまで書いておいてなんですが、調べたところヘンリー・ジェイムズは実際にこんなことを書いてもいないし、言ってもいません。つまり、この引用はウソでハッタリだったのです!)
まあ、上記の多くの疑問点に対し、例えばノーマンとアン(もしくはエリックの愛人)が不倫関係にある、とかルーシーのシーンも抗精神薬が見せる幻、など考察もあるようですが、多分製作した側はそこまで考えて作ってはいない気がします。
個人的には、禁断の医学によって物理的に永遠の命(維持するのはとても手間がかかるが、理論上は可能)を手に入れたフロイトシュタインと、反対にスピリチュアルな存在となって永遠の命を得てしまったっぽい妻メアリーの対比については、もう少し深堀りしてほしかったですね。(ちなみにフロイトシュタインは完全に生きているので、本作はゾンビ映画の範囲には含まれません)
「地獄の門」三部作と言われつつも、本作は前2作と明らかに趣を異にします。
しかし、大きな視点では死後の世界がストーリーにからみ、なおかつそれが現実と地続きである点は同じと言えましょう。
世間では、この作品からルチオ・フルチの凋落が始まったとの見方が有力ですが、少なくとも私は本作をフルチ流のおとぎ話として楽しく鑑賞できました。
どんなおとぎ話の怪物にもビジュアルでは負けないフロイトシュタインの造形ひとつ取っても、フルチの偉大さが再認識できることでしょう。

⇦19世紀から生きているから、カッピカピに干からびたミイラか屍蝋のような状態のフロイトシュタイン博士。鼻と口が一体化し、眼球がなく眼窩まで見えそうである。この顔で軍服みたいな衣装とシュッとした体型なので非常にカッコイイ。